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NiloのNiloによるNiloのためのブログ。マイブームの流行り廃りがとてつもなく著しい。
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この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体などとは一切関係ありません。

「過去に行って、まず初めにしたいことは何ですか?」
記者たちは私を取り囲み、無遠慮にマイクやらボイスレコーダーやらを突き出して問うた。
無数のカメラのフラッシュが光り、テレビカメラがまるで目のようにこちらに向けられていた。
「そうですね…」
勿体ぶった口振りをする私を、続きを催促するように記者たちは瞬き一つせずに見つめた。
「過去の自分に会いたいですね」
隣にいた博士は、その答えを聞いて慌てたように言った。
「おいおい、過去に行くのは良いけれど、歴史や記憶を改ざんするようなことはよしてくれよ」
「分かってますよ、博士」
私はニッコリと笑って、時限旅行装置の開発者に言った。
「それらの行為は、時限旅行において最も犯してはならない禁断のタブーなのでしょう?」
「そうだ」
博士は重々しく頷いた。
「もし私が罪を犯したら、帰って来た後で刑に処するなり何なり、好きなようにしてください」
「頼むからそういうことはしないでくれ…。では、装置に乗ってくれ」
私は頷くと、まだ質問し足らない様子の取材陣に背を向けた。
装置はまるでエレベータのような形をしている。
窮屈な円筒形の箱の中で私は出立の時を待った。
「行きたい時間は…、15年前の4月、で良かったかな?」
「ええ」

それより15年前の4月、とある幼稚園で事件は起きた。
突如、女が幼稚園に侵入し、持っていた刃物で園児を刺殺したのである。
女はそれ以上の危害を加えることも無く、逃げることもせず、
園長の通報によって駆けつけた警察官にあっけなく逮捕された。
女に対して取り調べが行われた。
「えー…、君は…今回の被害者、君が殺した女の子、吉川友恵ちゃんとはどういう関係かな」
「…」
「だんまりか…」
刑事は困ったように頭を掻いた。
「動機は?」
「…」
「…」
「…私、知ってるんです」
「は?何を」
ずっと黙秘し続けるかと予想していた刑事は拍子抜けした。
「あの子は…いずれ家族に迷惑をかけるんです。
教育費が嵩んで…、学費の高い学校に行かせてもらう割には頭は良くならない。
それどころか、どんどん怠惰になって、悪知恵だけは働くようになって…。
親もあの子の面倒を見るのにうんざりします。可愛くないし、口はきついし、物を壊すし。
やがてあの子は自殺をしようと思うんです。でも怖くてできない。
それに親が今まで自分にかけてくれた養育費を考えると申し訳なくなる」
「ちょっ、ちょっ、…あんた一体、何でそんなこと」
刑事は慌てて言った。
と同時に、もしかするとこの女は違法薬物の常習者かもしれないと思い始めていた。
とにかく言っていることが正気とは思えない。
「そしてあの子は、やがて思うのです。
ならばまだ養育費をかけていないときに、…殺してしまおうと」
いよいよ訳が分からなくなってきた刑事は、ずり落ちた遠近両用眼鏡を中指で押し上げた。
「少し待ってくれ。話を整理したい。…その…そうだ、まず、君の名前は?」
「…」
刑事は固唾を呑んで、女の返答を待った。
「…吉川友恵です」
「…えっ?」
「今日私が殺した吉川友恵の15年後の吉川友恵です」
「は、い…?」
「だから私は殺人罪を犯していません。…これは、自殺です」
そう言った瞬間、女、吉川友恵の姿が泡のように輪郭から毀れ始めた。
そしてやがて女は髪一本残らず姿を消してしまった。
この話はその日のトップニュースとなり、数ヶ月間その話題で持ち切りとなった。

15年後のとある日。
「過去に行って、まず初めにしたいことは何ですか?」
記者たちは男を取り囲み、無遠慮にマイクやらボイスレコーダーやらを突き出して問うた。
無数のカメラのフラッシュが光り、テレビカメラがまるで目のように彼に向けられていた。
「そうですね…」
勿体ぶった口振りをする男を、続きを催促するように記者たちは瞬き一つせずに見つめた。
「坂本竜馬に会いたいですね。僕の歴史上、最も尊敬する人物なんです。」
隣にいた博士は、その答えを聞いて、先ほどした忠告を繰り返した。
「過去に行くのは良いけれど、歴史や記憶を改ざんするようなことはよしてくれよ」
「分かってますよ、博士」
男はニッコリと笑って、時限旅行装置の開発者に言った。
「それらの行為は、時限旅行において最も犯してはならない禁断のタブーなのでしょう?」
「そうだ」
博士は重々しく頷いた。
「もし僕が罪を犯したら、帰って来た後で刑に処するなり何なり、好きなようにしてください」
「頼むからそういうことはしないでくれ…。では、装置に乗ってくれ」
男が頷くと、まだ質問し足らない様子の取材陣に背を向けた。
装置はまるでエレベータのような形をしている。
窮屈な円筒形の箱の中で男は出立の時を待っていた。
「行きたい時間は…、1861年。坂本竜馬が脱藩した年…で良かったかな?」
「ええ」

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